雨降りと客室乗務員の罪悪感

モンスーンが本格的になって、毎日朝から夜まで、ずっと雨が降っている。時々止む。でもまたやがて降り出す。朝と昼と晩に、音をたてて豪雨がやってくる。そしてまた、静かな雨に戻る。

ニューヨークからムンバイに戻るときにスイス・エアラインを使った。インド人の乗客が降りぎわに「スイスはいい気候だろうねえ。明日休みなの?」とたずねると、大柄で愛嬌のある客室乗務員の女の人が、「そうなのよ。でもきっとお天気がすばらしいのに外に出ないで家でだらだら過ごして、罪悪感を感じつつ休みが終わるのよねぇ」と嘆いていた。そういうのは結構、わかる気がする。雨が降っていると、ま、じゃあうちにいるかな、と簡単に割り切れるわけだ。

この「休みに外出しなかったことへの罪悪感」というのは、考えてみたら奇妙だ。でも多分、なんだか、まじめに生きていないような気がするんだろう。体も心も時間も、端から端まで使い切っていないと人生に損をしているような、そんな気持ちになるんだろう。でも雨や嵐だったらしょうがない。読みかけの本やテレビの録画を斜めに見ながら、耳の端っこで雨の音を感じて一日を過ごすのも悪くない。

私は神経が疲れているときには、前に何十回と読んだ本を読んだり、すでにせりふまで覚えちゃっている映画をよく観る。ときどきふと、こういう行為は果たして人生の時間の浪費であろうかと考える。2時間の映画を5回観たら10時間、その間に別の9本の映画を見ていたら、新しい世界がひらけたかもしれない。テレビドラマでどうでもいい主人公の恋愛の行方を追ったりしている時間を使って、何か別の種類の感性に動かされることができたかもしれない。

ときどきはそんな反省のようなことをしてみたりする。

でも結局はどうなんだろう。どんなに多くのすばらしいものを頭に詰め込んだとしても、結局はどこかのポイントで自分は消えてしまう。どんな重大な秘密や真実を知っても、どんな偉大な理論を残しても。こうして日々与えている自分への刺激は、実際どこか意味あるところに向かっているのか、自分を退屈させないための単なる時間つぶしに過ぎないのか。

見かけが怠惰か勤勉かどうかと、頭の中がどれだけ退屈であったり豊かであるかは違う。それは他人にはわからなくていいけど、自分が知っていればいい。どう見えるかだけで物事の重要性を判断してはいけない。だから、天気がよくったって家でぼんやりしていたらいいし、ご飯を作る元気がなかったらカップラーメンを食べたらいいし、勉強に集中できなかったら意識をよそに飛ばしたらしいし、「存在と時間」を読む代わりにバック・トゥ・ザ・フューチャーを観たらいい。

というようなことをじめじめと考えながらそのスイス人客室乗務員に笑顔をくれて、混雑する飛行機の通路を出た。私の場合、何かを考えはじめても、もたいてい最後の結論は自己肯定になってしまうので、あんまり考える意義がない。でもまあ自然発生的な物事にいちいち意味を求めていたら、人生疲れるだけだ。雨は雨だ。ムンバイの雨は私のメンタリティーに結構合っているんだと思う。

9 Comments (+add yours?)

  1. masutani
    Jul 09, 2010 @ 16:30:12

    あいさん、お久しぶりです!実はひそかに、かなり熱心なブログの読者であり続けています。

    日本は梅雨明けまであと一息です。夏のかんかん照りだと、家で寝っ転がる罪悪感が増します。

    ところでこの前、NHKでアビシェイクみましたよ!1分ほどしゃべっていました。横に湯浅さんも写っていたような。。。「丸の内に進出した」って紹介されていたんですけど、ほんとですか?相変わらずすごい勢いですなー。

    Reply

    • ai
      Jul 10, 2010 @ 06:52:27

      お、お久しぶりー!読んでくれてありがとう。なんか日本も東京とか雨がすごいらしいねえ。あけみちゃんいまどこに住んでいるの?
      そうそう日本法人が丸の内でインド企業の日本進出支援をしているビルに移動したんで、アビシェイクがちょっと取材されたみたいだね。進出というたいそうなもんじゃなくて、手狭なんで条件のいいところに引越したってことらしいね。

      Reply

  2. masutani
    Jul 10, 2010 @ 09:48:02

    そうそう、海外資本が日本の土地を買い叩いている・・みたいな文脈のテレビ番組で紹介されてました!アイオズモシスにもかなり変革が起こっているみたいですね。アイモくんの名義変更が行われたのは個人的に結構残念です(笑)

    今は相変わらず大阪に住んでて、卒業すべく論文を書いているふりをしています。じつはなんだかんだで、超狭い家にたかしくんと一緒に住んでます。

    Reply

    • ai
      Jul 12, 2010 @ 14:32:17

      そう、アイモ君については悔やまれるんだけど、まあ仕方ない。アイモ君はある日繭に包まれて、出てきてみたらカクタンという別の生き物になっていたというストーリーです。

      おー、たかしくんと一緒に大阪に住んでるんだねー。それは知らなかった!たかしくんはやせているから(今もそうなら)狭い家に一緒に住んでいてもあんまり苦にならなそうですが。卒論書くフリって、超簡単だよね。「書いてます」とか「詰まってます」って言うだけだもんねえ~はははは。私みたいに論文まとまらない地獄に陥らないように、気をつけて、楽~に書いてね。

      Reply

  3. masutani
    Jul 16, 2010 @ 01:22:19

    繭につつまれて、新たな存在に生まれ変わる、ですか。なんか恣意的な気もします。ある日突然カフカの『変身』みたいに自分自身が別の生き物になってしまうかもしれない。とかたまに思います。
    たかしくんは相変わらず痩せているんですが、お互い荷物が増えてきたんで、新しい家に引っ越す予定です。同じマンションの、隣同士の部屋に(笑)。同棲には親が反対してるので…。というのも、たかしくんは最近、一念発起して会社をやめ、めでたく無職になったんです。資格をとって別の仕事につきたいみたいで、勉強に専念しています。なにぶん先行き不透明なもので、親は怪しんでいます(笑)。
    あいさんもあんまり働きすぎないように身体に気をつけてください!

    Reply

    • ai
      Jul 23, 2010 @ 04:29:55

      同じマンションの隣同士の部屋って、よく見つかったねえ、そんな物件が。それは同じ部屋に住むのと、親の観点から見てどうちがうんだろうか・・・。将来有望な無職なら、将来無謀の有職よりいいじゃんか、と思います。たかしくんって淡白な雰囲気だから、その有望さが外見からわかりづらいかもねえ。そのうち伝わるよ。うん、わたしも適当にがんばります。新しい生き物になったら教えてね。

      Reply

  4. Yuki
    Jul 21, 2010 @ 09:00:48

    あいさん

    お久しぶりです。

    私もあいさんのブログのファンの1人です。

    US旅行楽しんだようですね!!
    お疲れ様でした。

    私はというと、8月4日にインドデリーに到着します。

    先を考えると不安もいっぱいありますが(弱っちい自分でゴメンなさい!!)
    いつかあいさんにムンバイでお会いできること楽しみにしています。

    その時には、インドで働く日本人同士として相談にのっていただく
    ことは山ほどあると思いますが、世話してやってください。

    それでは、Ciao

    Yuki

    Reply

    • ai
      Jul 23, 2010 @ 04:33:54

      Yukiさん、お久しぶりです。とうとうデリー。あと1週間しかないですね!確かに、慣れるまでしばらくは大変だとおもいますが、がんばってください。多分、携帯電話の契約とか、外国人登録のマニュアルさとか、そういう雑事の異様な面倒くささと戦っているうちにあっというまに3ヶ月ぐらい過ぎちゃうと思う・・・。インドで会いましょう。待ってます~。Chao!

      Reply

  5. Trackback: 2010 in review « Bombay Dog

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