価値のゼロ地点で、「あなたのことを知りたい」

唐突だが、私は子ども好きだ。小さい子どもと時間を過ごしたり遊んだりするのもけっこう得意なほうだと思う。子供は「うわー、人間が小さいぞ」というだけ面白いし、そもそも、生き物が好きなのだ。ある日、知人たちとその子どもたちと一緒に意気投合して遊んでいたら、一人に「そんなに子ども好きなら、結婚して自分の子どもを産めばいいじゃないか」と言われた。これって、本当、よく言われるんだけれど。

「・・・そうだねぇ。」と曖昧に返すのだが、この「・・・」の間で、この相手とこれからどれだけお互いの人生についてシェアする価値があるか、自分のエネルギーと時間を投資する意味があるか、その関係の重みを量ってしまうしたたかで冷たい自分がいる。「いや、そういう観点の話ではなくてね」と説明するのも面倒だし、「なんか今お前の価値観押し付けようとしてね?くるのか?お?」と応戦するのも違う。

どうしたら、価値観についての対話を、人ともっと楽に、うまくできるんだろう?最近それをぼつぼつと考えている。

世の中には、説明不要な価値観と、なぜ?と説明を必要とする価値観が存在する。

「なんで学校なんかに毎日行くわけ?」
「どうして日本でずっと暮らしているの?」
「なんで働いてるの?」
「なんで子どもを生んだの?」

とはあんまり聞かれない。逆だと理由を聞かれる。しかし、仮にマイノリティに見えたとしても、なぜその価値観なのか?に大した理由なんて存在しないことだってある。「たまたま自分の場合はそうだ」としかいいようのないようなことが。

例えば、私は結婚しよう、子どもを持とう、と考えたり悩んだりしたことはこれまでにない。選択肢の中に入ってくるほどの興味がないだけで、強固な信念や重大な決断の結果でもないし、深層心理の問題でもなさそうだ。後付けする理由はいくらでも思いつくけれど、実際には「そうだ、インドで暮らしてみよう」と思わない人がいるのと同じぐらい原始的な普通の感覚だと思う。少なくとも自分の例を見るかぎり、愛と結婚は無関係で、子ども好きであることと子孫を残したい本能もつながっていない。意味は、特にない。

人と違った価値観を「なぜ?」と聞かれると、答えなければならないというプレッシャーから後付けで理由を探しがちだ。自分の生き方の正統性を自分で納得し、他人に理解し認めてもらうために論理的な説明をでっちあげるかもしれない。しかし、価値観や生き方についての説明義務は誰にも、誰に対してもないだろうと思う。

同じように、おそらく自分も「これは常識だと思う」「人間って普通こう感じる」と勝手に思い込んでいる自分の価値観をほうぼうで人に押し付けて生きているし、答えづらい質問を人にして回っているにちがいない。「それで幸せなの?」というお節介なだけの疑問を言葉尻にちらつかせて。

生き方や考え方、価値観について他者とエンドレスに語り合うのは、多分人間に与えられた最大の楽しみの一つだ。ならばどうしたら価値観を押し付けあわずにオモシロく語りあえるんだろう?

私の友人にも多いが、本当にニュートラルな人々というのは、他人に興味がないか、逆に他人の価値観を自分の世界を広げる「コンテンツ」として楽しむことができる人かのどちらかだ。そういう人は、最近どんなことを考えているのか?何が好きか?あることについてどんなふうに思うか?どんなプランなのか?とオープンクエスチョンを聞く。そして、自分の意見を言う。あなたはAですか、それともBですか?を見極める質問ではなく、あなたはどんな人ですか?という結論のない問いをなげかける。そういう対話は違いを埋めることを目的としていない。ただ共通点があれば喜びあい、違いがあればオモシロがる。あまりにも違いが大きければ、もう会わない・関わらないという合理的な選択肢をいつもカードの中に忍ばせながら。

必要なのは、自分は偏っており、どこか自分からは離れた場所に価値のゼロ地点が存在すると仮定することかもしれない。相手がどんな人間なのかを自分を起点に考えないことだ。「自分にとって空気のように当たり前の常識や、疑問の余地がないほど大切な価値はなんなのか?」をまず知らなければ、その思い込みを削ぎ落とすことはそもそもできない。自分の価値観の偏りを知った上で、自分にとって大切なことが目の前の人にはまったくそうではない可能性を受け入れて、それを前提条件として知らない同志、話し合う。どんなに相手を知ったと思っても錯覚だ。仮定のゼロ地点がどこにあるのかは、永久にわからないままなのだから。

他者へのリスペクトとは、つきつめると「あなたのことを知りたい」という姿勢なのかもしれない。私の世界のことは、少し横に置いておいて。

Published by

Ai Kanoh

Working for marketing, branding, business.

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